藤野と京本の関係性。『ルックバック』二人が描いたものを読み解く

ルックバック ルックバック

はじめに:「友達」とも「ライバル」とも違う、二人の関係

藤本タツキ『ルックバック』に出てくる藤野と京本。

この二人の関係を、ひとことで何と呼べばいいでしょうか。

「友達」── 確かにそうだけど、それだけじゃない。 「ライバル」── そう呼ぶには、もう少しやさしい何かがある。 「相棒」「共犯者」「片割れ」── どれも近いけど、どれも完全には言い当てられない。

藤本タツキは、この曖昧な関係性を、明確な定義をせずに、ただ二人の時間を積み重ねることで描いていきます。

この記事では、

  • 藤野と京本がどう出会ったか
  • 二人を結びつけたもの
  • 二人の道が分かれた瞬間
  • 「もしも」の世界が示しているもの

を、ファン目線で読み解いていきます。

※物語の核心ネタバレを含みます。未読の方は必ず『ルックバック』を読んでから戻ってきてくださいね。

藤野と京本:二人のプロフィール

物語の主人公・藤野は、小学生のころから学級新聞で4コマ漫画を描き、周囲から「画力がある」と称賛され続けてきた少女です。

そんな彼女のもとに、ある日、衝撃のニュースが届きます。同じ学年に、不登校の同級生・京本がいる。そして、その彼女が新聞に描いている漫画の絵が、藤野を遥かに上回る画力だった ── というニュース。

藤野はショックを受け、嫉妬と焦りから猛烈な努力を重ねます。けれど、努力をしても京本との差はなかなか埋まらない。

藤野が一度漫画を諦めかけたとき、卒業証書を届けるという用事で、彼女は京本の家を訪れることになります。

そこで初めて、二人は出会います。

二人を結びつけたもの:「描くこと」への情熱

京本が藤野に向けた最初の言葉は、「藤野先生のファンです」でした。

不登校で部屋にこもり続けていた京本にとって、藤野の漫画は外の世界とつながる、ほぼ唯一の窓だったんです。

衝撃を受けた藤野は、雨の中、家までの帰り道を一人で踊りながら走り抜けます。

このシーン、本作の中でも特に印象的な場面のひとつ。

「自分の作品が、誰かにとって特別な意味を持っていた」── 創作をしたことがある人なら、この感覚がどれだけ強烈なものか、想像できるはずです。

この瞬間から、藤野と京本は「漫画」を介して結ばれていきます。

二人は原稿用紙を分け合い、藤野が原作とコマ割りを担当し、京本が背景を描き込む分業体制で、共同で作品を作り続けていきます。賞を獲った作品もあれば、ボツになった作品もある。けれど、その時間の全てが、二人にとってかけがえのないものになっていきました。

二人の道が分かれた瞬間

順調に思えた二人の関係に、転機が訪れます。

京本が「もっと絵を学びたい」と言い出し、美大への進学を決めるのです。

藤野は猛反対します。「美大なんかに行ったら、漫画家になれない」と。けれど、京本の決意は固い。

このやり取りは、本当に胸が苦しくなります。

二人が「漫画」という同じ夢を共有していたはずなのに、ある瞬間から、その夢の形が違うものになっていく。

そして、京本は美大に進学し、藤野は一人で漫画を描き続ける人生を選びます。

「もしも」の世界が示しているもの

物語の終盤、ある重大な出来事が起こります。

その出来事をきっかけに、藤本タツキは「もしも、あのとき藤野が京本と出会わなかったら」「もしも、藤野が京本を漫画に引き入れなかったら」という if のシーンを挿入します。

このパートが、『ルックバック』の真のクライマックスです。

ここで描かれる並行世界は、現実より少しだけ穏やかで、少しだけ平和。

でも、その世界でも、結局二人は別の形で「漫画」を介して再会する。

このシーンが示唆しているのは、「二人が結ばれたのは、たまたまじゃない」というメッセージです。漫画というメディアが、何度世界をやり直しても、二人を結びつけずにはいられない ── そう読むこともできるんです。

まとめ:「ひとりで何かをつくる人」のための物語

藤野と京本の関係は、現代に生きる「ひとりで何かをつくる人」全員に向けた、藤本タツキからの手紙のようでもあります。

漫画家でなくとも、絵描き、書き手、音楽家、エンジニア、研究者 ── 一人で何かを創り続ける人にとって、「自分にとっての京本」のような存在は、きっと心のどこかにいるはずです。

孤独に技を磨き続ける誰か。その誰かの背中があるから、自分も机に向かい続けられる。そして時に、その誰かと道が分かれる瞬間が訪れる。

『ルックバック』は、そんな経験を、たった143ページに凝縮して描き出した作品です。

藤野と京本の関係を読み解くことは、つまるところ「自分にとっての創作の意味」を、もう一度見つめ直すことでもあります。

何度でも読み返したくなる、いつまでも色褪せない一冊だと思います。

関連記事

出典・参考

  • 藤本タツキ『ルックバック』集英社ジャンプコミックス, 2021年
  • 少年ジャンプ+ 2021年7月19日掲載
  • 映画『ルックバック』(2024年6月28日公開, 押山清高監督)

コメント

タイトルとURLをコピーしました