はじめに:「嘘か、真実か」── そう問わずにいられない関係
藤本タツキ『さよなら絵梨』に出てくる、優太と絵梨。
映画を撮ることに取り憑かれた少年と、廃墟で出会った不思議な少女。たったそれだけのプロフィールを聞けば、ありがちな青春物語に聞こえるかもしれません。
でも、この二人の関係を一度でも追いかけた読者は、同じ問いを胸に残すことになります。
「二人のあの時間は、本当に現実だったのか? それとも、優太が撮った『映画』の中だけの出来事だったのか?」
『さよなら絵梨』という作品は、この問いに最後まで明確な答えを出しません。
この記事では、
- 優太と絵梨が出会うまでの優太の物語
- 二人が一緒に過ごした時間
- 絵梨という存在の「謎」
- ラストシーンが二人の関係に投げかけるもの
を、ファン目線で読み解いていきます。
※物語の核心に踏み込みます。未読の方は必ず『さよなら絵梨』を読了してから戻ってきてくださいね。
優太と絵梨:出会いまでの物語
主人公・優太は、映画を撮ることに取り憑かれた少年です。
物語は、優太が母の余命宣告をきっかけに、彼女の最期を「映画として撮る」と決意するところから始まります。
母の闘病、優太とのやり取り、そして死の瞬間 ── そのすべてをカメラに収め、編集して上映会で発表する。それが、優太が「自分にできる、母への弔い方」として選んだ表現でした。
しかし、母の最期の瞬間、優太はカメラを置いて病室を飛び出してしまいます。
そして、その編集された映画は、上映会で観客の笑いを浴びるという、痛烈な結末を迎えます。
母を失い、自分の映画も否定された ── そんな状態で廃墟をさまよっていた優太が出会ったのが、絵梨です。
二人が一緒に過ごした時間
絵梨は優太に、ある提案をします。
自分はもうすぐ死ぬから、その最期を映画にしてほしい ── そう告げて、優太に協力を求めるのです。
母の死を撮りきれなかった優太にとって、絵梨の提案は、もう一度「死を映画にする」というチャンスでした。
二人は一緒に、映画作りに取り組みます。
廃墟での会話、映画の打ち合わせ、お互いの好きな作品について語り合う時間 ── このパートで描かれるのは、純粋に楽しい、二人の交流の時間です。
母を撮ったときと違って、今度の優太は、絵梨と過ごす時間そのものを楽しんでいる。
そして、二人で「絵梨の映画」を完成させていきます。
絵梨という存在の「謎」
絵梨は、本当に実在していたのでしょうか?
物語の構造を追っていくと、いくつかの不思議な点が浮かび上がります。
- 絵梨が優太の前に「都合よく」現れること
- 二人の時間が、まるで映画のワンシーンのように整然と切り取られていること
- 大人になった優太が再び廃墟を訪れたとき、絵梨が「ヴァンパイア」のような存在として描かれること
これらの要素から、「絵梨は優太の心が作り出した存在ではないか」「絵梨と過ごした時間は、優太が自分のために撮った『映画』だったのではないか」という読み方が、自然と立ち上がってきます。
藤本タツキは、絵梨が実在したかどうかを、明確にはしません。
「現実」と「優太が撮った映画」と「優太の記憶」── これらが意図的に曖昧にされたまま、読者の前に手渡されるんです。
ラスト爆発の意味と、二人の関係
物語のラスト、優太と絵梨は廃墟で再会します。そして、爆発が起こる。
このシーンの解釈は、絵梨をどう捉えるかによって大きく変わります。
- 絵梨を「実在の少女」と読むなら、二人が共有した記憶を、優太が「物語」として閉じる最後の場面
- 絵梨を「優太の心の中の存在」と読むなら、優太が自分自身の喪失と決別する瞬間
- 絵梨を「優太が作った映画のキャラクター」と読むなら、その映画が「ひとつ非現実な絵」を入れて完成する瞬間
どの読みを取っても、二人の関係は「終わり」を迎えます。けれど、その終わり方が、二人にとっての救いになっている ── そう感じさせる結末です。
まとめ:「嘘か真実か」を問わせる関係こそが、二人の本質
優太と絵梨の関係に、明確な答えはありません。
実在したのか、しなかったのか。 二人が共有した時間は、本当に現実だったのか、それとも作られた物語だったのか。
藤本タツキは、こうした問いに対してあえて答えを出さないことで、「フィクションと現実、どちらに救いがあるのか」「失った人を物語にすることは、悪いことなのか」という、もっと大きな問いを読者に投げかけてきます。
優太と絵梨の関係を読み解くことは、つまるところ「自分にとって、失った大切なものを物語として残すことの意味」を考えることでもあります。
何度読み返しても、新しい読みが立ち上がってくる ── そんな二人の関係です。
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出典・参考
- 藤本タツキ『さよなら絵梨』集英社ジャンプコミックス, 2022年
- 少年ジャンプ+ 2022年4月11日掲載


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